前職で外壁塗装の窓口にいた頃、埼玉県のあるお客様からお電話をいただきました。築十数年のお宅で、見積もりを取ったところ「単色で塗りつぶすことになります」と言われた、というご相談でした。
そのお宅の外壁は、レンガ調で一枚一枚に濃淡がついたサイディングでした。新築のときにご夫婦で住宅展示場を何度も回って、ようやく決めた柄だったそうです。「この柄が気に入って家を建てたようなものなのに、塗り替えたら消えてしまうんですか」と、電話越しにも分かるくらい落ち込んだ声でした。
私はその場で、少し前ならクリヤー塗装という選択肢もあった、とお伝えするしかありませんでした。今でもあの沈黙は覚えています。
クリヤー塗装は、色のついていない透明な塗料で外壁を保護する方法です。今の柄や色合いがそのまま見えるので、新築時の雰囲気を残したまま塗り替えができます。
ただ、どんな状態の壁でも使えるわけではないんですよね。透明なので、色あせや傷み、汚れもそのまま透けて見えてしまいます。壁を触ると手に白い粉がつく、色がはっきり薄くなっている、ひび割れが目立つ……こうなってくると、クリヤーで塗っても見た目は戻りません。色のついた塗料で覆うしかなくなります。
一般的には、築10年前後までが検討できる時期の目安と言われることが多いです(日当たりや立地で傷み方はかなり違うので、あくまで目安ですが)。南側だけ色あせが進んでいて、北側はまだきれい、というお宅も珍しくありません。
クリヤー塗装で難しいのは、壁がまだきれいに見える時期こそ、塗るのにちょうど良いタイミングだという点です。
見た目がきれいなうちは、塗装のことなんて考えませんよね。私もお客様の立場だったら、同じように後回しにしていたと思います。ところが「そろそろかな」と思う頃には、もう色あせが進んでいてクリヤーでは対応できない。そういうすれ違いが、この業界では何度も起きてきました。
業者側にも理由があります。クリヤー塗装は下地の状態を見極める力が求められますし、塗りムラが目立ちやすく、手間のわりに扱いたがらない会社も一部にあるんです。「単色で塗ったほうが長持ちしますよ」とだけ言われて、クリヤーという選択肢を聞かされないまま決めてしまった、という声も届いています。
柄のあるサイディングにお住まいなら、築年数が浅いうちに一度だけ、業者に「クリヤー塗装はできますか」と聞いてみてほしいと思っています。すぐに塗る必要はありません。今の壁がクリヤーで間に合う状態か、あと何年くらい様子を見られそうか、それを知っておくだけでも判断がまったく違ってきます。
気をつけてほしい点もあります。サイディングによっては、表面に特殊なコーティングがされていて塗料がつきにくいものがあります。新築時の図面や仕様書にサイディングのメーカー名や品番が書いてあれば、それを見せながら相談すると話が早いです。目地のコーキングは透明な塗膜の下でも見えるので、打ち替えたときの色の合わせ方もあわせて確認しておくと安心だと思います。
冒頭の埼玉のお客様は、最終的に二色を使って柄の雰囲気に近づける塗り方を選ばれました。「元通りではないけれど、納得はできました」とおっしゃってくださいましたが、最初から知っていれば選べた道があったことは、今も心に引っかかっています。