手のひらサイズの色見本で「これがいい」と決めた色を、実際に何十平米もある外壁に塗ると、見本よりも薄く、明るく感じられることが多いんですよね。逆に暗い色を選んだ場合は、想像していたよりも重たく、濃く見えることもあります。面積が大きくなるほど色は薄く軽やかに見え、逆に暗い色は面積が広がるほど濃く沈んで見える、という性質があるためで、業界では「面積効果」と呼ばれています。
光の当たり方も大きく影響します。色見本を室内の照明の下で見るのと、屋外で太陽光を浴びた外壁として見るのとでは、まったく印象が違ってきます。朝と夕方でも、隣家の陰になっているかどうかでも、驚くほど表情を変えるのです。同じベージュ系の塗料でも、南面と北面とで見え方が違って見えたというお話を伺ったこともあります。
塗料メーカーのカタログに載っている見本も、印刷や画面の色味の都合でどうしても実物とは差が出ます。カタログだけを見て決めてしまうと、現物の質感まではなかなか伝わらないものなんですよね。
前職で「外壁塗装の窓口」に勤めていた頃、長野県のお客様から工事が終わった直後にお電話をいただいたことがあります。「見本ではもっと落ち着いたグレーだったのに、家全体になったらずいぶん白っぽく見える。話が違うのではないか」というお声でした。
現地に伺って業者さんと一緒に確認したところ、塗料そのものは見本通りで、色番号にも間違いはありませんでした。ただ、A4サイズにも満たない見本と、100平米近い壁面とでは、目に入る情報量がまるで違います。お客様には申し訳ない気持ちと同時に、こうした説明を契約前にもっと丁寧にしておくべきだったのではないか、という思いが今も残っています。
あのときのお客様の声は、今でもふとした瞬間に思い出します。悪気があってのことではないだけに、余計に心に残っているのだと思います。
色選びで印象のギャップを減らす方法はいくつかあります。まず、できるだけ大きなサンプル板を用意してもらい、実際の壁に立てかけて確認することです。手のひらサイズの見本だけで判断するより、面積効果を含めた色の傾向をつかみやすくなります。
時間帯を変えて見ることも大切です。朝の光、昼の光、夕方の光では色の見え方がまったく異なりますし、晴れの日と曇りの日でも印象は変わります。可能であれば数日かけて、違う時間帯に同じサンプルを見比べていただきたいと思っています。
ご近所の塗装済みのお宅を見せてもらうというやり方も有効です。似た色味の家を実際の大きさで見られるので、見本だけでは分からない質感や陰影のつき方が伝わりやすくなります。迷ったときは、見本の色より一段階明るめ、あるいは一段階暗めのものも合わせて用意してもらうと、比較の判断材料が増えます。
色の見え方が変わるという話は、業界の中では当たり前に知られていることです。ただ、それをお客様にきちんと伝えているかというと、こうした説明を省いてしまう現場も見てきました。悪気があるというより、慣れている側にとっては当然のことすぎて、説明の必要性に気づきにくいのだと思います。
先日も、色選びの打ち合わせに同席させていただいた際、担当者が大きめのサンプル板を三枚並べて、あえて曇りの日に外で確認する提案をしていました。手間のかかる作業ですが、こうした一手間がお客様の納得につながるのだと、あらためて感じた出来事でした。
業界に身を置いて20年になりますが、色選びのトラブルは、塗料そのものの品質より、こうした事前説明の有無で起きているケースが多いように感じています。だからこそ弊社では、色の見え方について丁寧に伝えることを、業者選びの物差しの一つとしてお伝えするようにしています。