以前、埼玉県のあるお客様からいただいたご相談を今でも覚えています。外壁塗装の工事が始まって数日、庭先に会社名と電話番号が大きく書かれたのぼり旗が何本も立てられていたそうなんです。工事中の目印としては珍しくない光景です。ですが、ご近所の方から「お宅、何か商売でも始めたの?」と声をかけられて、返答に困ってしまったといいます。
お客様としては、外壁塗装をお願いしただけのつもりです。それなのに、まるで自宅の前で営業活動をしているかのように見えてしまう。悪気があってのことではないのですが、日々顔を合わせるご近所との関係の中で、こうした小さな違和感が積み重なっていくことがあるのです。
業者側の事情も分からなくはありません。工事現場にのぼり旗を立てることは、地域での認知を広げる手段のひとつですし、コストをかけずにできる宣伝方法として長く使われてきました。近隣への挨拶代わりに「今、ここで工事をしています」と示す意味合いもあります。
ただ、そこに住んでいるのはお客様であり、工事期間だけ切り取れば数日から数週間でも、そこでの暮らしはずっと続いていきます。旗を見た近隣の方の記憶に「あの家、なんだか派手だったな」という印象が残ってしまえば、工事が終わったあとも気まずさだけが残ってしまう。業者にとっての当たり前が、お客様にとってはそうでないことがあるのだと、私は現場の話を聞くたびに感じています。
見積もりの段階で、価格や工程については細かく聞くお客様が多い一方、現場の見た目についてまで質問される方は、正直それほど多くありません。ですが、のぼり旗や看板を立てる方針があるかどうか、立てる場合はどの位置にどれくらいの数を想定しているのか、事前に聞いておくだけで印象は変わってきます。
「玄関から見えない位置にしてもらえますか」「工事のお知らせ看板だけで十分です」といった一言を契約前に伝えられれば、たいていの業者は柔軟に対応してくれます。逆に、そうした相談に難色を示すようであれば、現場対応そのものへの姿勢も少し気にかけておいたほうがいいかもしれません。
足場の色や養生シートの柄について気にされるお客様は増えてきましたが、のぼり旗のような細部まではまだあまり意識されていないように思います。工事は数週間で終わっても、ご近所との付き合いはその先も続くものです。だからこそ、見た目に関わる小さな希望も、遠慮せずに伝えていただきたいなと思っています。
私自身、前職で数多くの現場対応を見てきましたが、こうした「言えばよかった」という小さな後悔ほど、あとになって心に残るものだと感じています。