前職で工事契約の書類を数えきれないほど見てきましたが、古い契約書のひな形をそのまま使っている業者に出会うことがあります。2020年の民法改正で、工事に不具合が見つかったときの責任の呼び方は「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」に変わりました。単なる言葉の入れ替えに見えて、施主が主張できる権利の中身にも違いが出ているんですよね。
以前は「隠れた瑕疵」でなければ責任を問えないという考え方が土台にありました。今は、契約の内容と違う仕上がりであれば、それだけで責任を問えるという考え方に変わっています。この違いを知らずに契約書へ判を押している方が、今でも少なくない印象です。
長野県のあるお客様から、こんなお電話をいただいたことがあります。外壁の一部にひび割れのような跡が出てきて、施工した業者に連絡したところ「契約から1年以上経っているので対応できません」と断られてしまったというお話でした。
契約不適合責任には、不具合に気づいてから一定の期間内に業者へ通知しなければ権利を失ってしまうという決まりがあります。民法の原則では「不適合を知った時から1年以内」に通知すればよいとされていますが、契約書の特約でこの期間を短く設定している業者もあります。お客様はそのことを契約の場で説明されておらず、書面のどこに書いてあるかも把握できていませんでした。電話口の声を、今でも覚えています。
契約書の中に小さな文字で「引き渡しから◯ヶ月以内に通知がない場合は責任を負わない」という一文が入っていることがあります。違法な条項ではありません。ただ、その一文の意味を契約の場でどれだけ丁寧に説明してもらえたかは、業者によってかなり差があるように感じます。
契約書を読み込むこと自体が苦手だという気持ちは、よく分かります。ページ数も多く、専門用語も並んでいますから。それでも外壁の不具合は、数年経ってから表面化することが多い工事です。だからこそ通知期間がどう書かれているか、契約前に一度確認しておいてほしいと思っています。
弊社に相談をいただく中で、契約不適合責任の通知期間について尋ねた時にすらすらと答えられる営業担当は、業界の中でもそう多くないというのが実感です。逆に言えば、契約書の条項を一つひとつ丁寧に説明してくれる業者かどうかは、施工の技術と同じくらい、業者選びの手がかりになるのではないかと思っています。
先日も、加盟店の担当者が契約前に通知期間の条項をお客様に読み上げて確認している場面に立ち会いました。当たり前のことのようで、実際にはなかなかできていない業者が多いというのが、業界に身を置いて20年近く見てきた実感です。