電力会社の電柱から家の壁に向かって斜めに伸びている線を、意識して見たことがあるお客様は少ないと思います。これが引込線で、電気メーターを経て家の中に電気を送り込んでいる大事な線なんですよね。多くの場合、2階の軒下や壁の上のほうに取り付け金具があって、そこに線が固定されています。
外壁塗装の足場は、家をぐるりと囲むように組み上げていきますから、この引込線が通っている場所の近くにも当然パイプが立つことになります。線に触れないよう、あるいは一時的に外して工事をするよう、電力会社との調整が必要になる場合があるんです。この調整を見積もり段階で誰も口にしないまま契約が進んでしまうケースを、私は何度か見てきました。
忘れられないお話があるんです。長野県のあるお客様の家は、2階の窓のすぐ横に引込線の取り付け点があって、足場屋さんが組み始めた初日に「ここは電力会社に連絡してからでないと組めません」と作業がストップしてしまいました。お客様は当然「聞いていない」と困惑されていて、電話口の声も少し震えていたのを覚えています。
結局、電力会社に一時的な線の移動をお願いすることになり、立会いの日程調整だけで一週間近くかかってしまいました。工事全体の工期が延びたことよりも、お客様が一番気にされていたのは「なぜ最初の現地調査で分かっていなかったのか」ということでした。私はこの件以来、現地調査の際は屋根や外壁だけでなく、引込線の取り付け位置まで写真に残すよう心がけるようになりました。
見積書に「足場一式」と書かれていても、引込線周りの調整費用まで含まれているかどうかは分からないことが多いです。お客様からは「足場を組む場所に電線がかかっていますが、その調整は見積もりに入っていますか」と、一言聞いていただくだけで十分だと思います。
優良な業者であれば、現地調査の時点でこの点に気づいて、電力会社への事前連絡を段取りに組み込んでくれます。逆に、この確認を怠ったまま着工日を決めてしまう業者は、他の細かい部分でも見落としが多い傾向があるように感じています。
電力会社による引込線の一時的な移設や取り外しは、多くの場合、電力会社側の作業として無償で対応してもらえることがほとんどです。ただし立会いの日程は電力会社の都合に左右されますので、業者側が早めに申請しているかどうかで、工期への影響が大きく変わってきます。
お客様側で費用を負担するケースは稀ですが、まれに建物の増改築などで引込線の経路自体に無理が生じている場合、経路変更の相談が必要になることもあります。こうした可能性がゼロではないことだけは、頭の片隅に置いていただけたらと思います。