山形県のお客様から、少し変わったご相談をいただいたことがあります。近隣の業者3社に加えて、車で3時間以上かかる隣県の業者からも見積もりを取っていて、その金額が群を抜いて安かったというのです。「本社は遠いけど、支店があるから大丈夫と言われました」とお客様は仰っていました。
私自身、前職の窓口時代にこうした案件を何度も目にしてきました。値段だけを見れば確かに魅力的です。ただ、契約書の隅々まで読んでみると、支店という言葉の実態が伝票上の住所に過ぎず、実際に現場へ来る職人は数百キロ離れた本社から通ってくる、というケースも少なくありませんでした。
遠方の業者が問題というわけではありません。ただ、職人が現場まで通う距離が長くなればなるほど、ガソリン代や高速代、場合によっては宿泊費までかかってきます。これを最初から見積もりに含めている業者もあれば、契約後に「追加費用」として請求してくる業者もあるのです。
忘れられないお話があるんです。長野県のお客様が、契約時に提示された金額から数万円上乗せされた請求書を受け取り、慌てて弊社に連絡をくださったことがありました。理由を尋ねると「遠方対応費」という項目が、当初の見積書には一切記載されていなかったというのです。業者に確認したところ「口頭では説明したはず」という水掛け論になってしまい、結局お客様が折れる形で支払うことになりました。
こうした業者ばかりではありませんが、遠方から来る業者に依頼する時ほど、交通費や宿泊費の扱いを契約前に書面で確認しておく必要があるんですよね。職人さんが毎日その日のうちに帰れる距離なのか、それとも近くに宿を取って何日か滞在するのか。工期にも関わってくる話なので、軽く聞き流してしまわず、担当者にきちんと尋ねてほしいと思っています。
工事中の値段だけでなく、工事が終わった後のことも考えておきたい部分です。塗装から数年経って不具合が出た時、近所の業者ならすぐに見に来てくれますが、遠方の業者だと日程調整に時間がかかったり、そもそも訪問自体に追加費用が発生したりすることがあります。
保証書に「訪問対応可」と書かれていても、実際に電話をしてみると担当エリア外だから提携業者に回すと言われた、というお話を伺ったこともあります。保証の内容そのものは正しくても、いざという時に駆けつけてもらえる距離にあるかどうかは、また別の話なんです。台風や地震の後、屋根や外壁の様子を見てほしいという時ほど、この距離の差が重くのしかかってきます。
ここまで注意点ばかりお伝えしましたが、遠方の業者を選ぶこと自体が悪いわけではありません。地域に密着した優良な業者が、たまたまお客様のお住まいから離れた場所を拠点にしているというだけのケースもたくさんあります。腕の良い職人を求めて、あえて隣県の業者に依頼する方もいらっしゃいます。
大切なのは、金額の内訳に交通費や宿泊費が含まれているかどうかを最初にはっきりさせておくこと。そして、工事後のアフター対応が実際どこまでの距離をカバーしているのかを、契約前に確認しておくことだと思っています。安さの理由が単に効率が良いからなのか、必要な費用を後から乗せるつもりだからなのか。そこを見極める視点を持っていただきたいんですよね。
業界に身を置いて20年近く経ちますが、値段の安さだけを見て契約を急いでしまうと、思わぬところでつまずくお客様を今でも見かけます。地元か遠方かにとらわれすぎず、費用の内訳と対応できる範囲を、ご自身の目で確かめていただけたらと思います。