前職にいた頃、秋の終わりに一本のお電話をいただきました。埼玉県にお住まいのお母様からで、外壁のひびが気になって見積もりを取ったところ、業者さんから「年内に塗りましょう」と勧められた、と。
ただ、そのご家庭には年明けに高校受験を控えた息子さんがいらっしゃったんです。「工事の音で勉強の邪魔になったらと思うと、決められなくて」。受話器越しの声が、少し震えていたのを今でも覚えています。
家のことも、子どものことも、どちらも大事。どちらかを選べと言われているような気持ちだったのだと思います。
このとき私がお伝えしたのは、外壁塗装の音や気配は工程によってずいぶん違う、ということでした。
大きな音が出やすいのは、足場を組む日と外す日、それから高圧洗浄の日あたりなんですよね。金属がぶつかる音や、水を吹き付ける音はどうしても響きます。一方で、塗料を塗っている日は、職人さんの足音や話し声はあっても、思っているほどの騒がしさではないことが多いのです。
もちろん、感じ方はお子さんによって違います(物音にとても敏感なお子さんもいますから)。それでも「工事期間中ずっとうるさい」と思い込んで先送りするのと、うるさい日がいつなのかを知ったうえで決めるのとでは、選べる道がまるで違ってくると思っています。
意外と見落とされがちなのが、塗装中は窓を養生で覆うため、開けられない日が続くことです。換気がしにくく、部屋が薄暗くなります。足場の上を人が行き来するので、カーテンを閉めたまま過ごす日もあります。
あるご家庭では、お嬢さんが「誰かに見られている気がして集中できない」と話していたそうで、お父様が申し訳なさそうに打ち明けてくださいました。音のことばかり気にしていて、そこまでは考えていなかった、と。
受験期の子どもにとって、自分の部屋は小さな城のようなものなんですよね。その城の窓がふさがれるというのは、大人が想像するより落ち着かないことなのかもしれません。
先ほどのお母様には、まず業者さんに受験のことを話してみてください、とお伝えしました。
まともな業者さんであれば、工程表を見せながら「音の出る作業は平日の日中にまとめます」「お子さんの部屋側は最後に回しましょう」「試験の直前は作業を止めます」といった相談に乗ってくれるものです。逆に、事情を聞いても「工期は変えられません」の一点張りだったり、時期を急かすばかりだったりするなら、その業者さんとの付き合い方は少し考えてもいいのではないでしょうか。
結局、そのご家庭は外壁のひびの状態を別の業者さんにも見てもらい、春まで待っても大きな問題はなさそうだと分かったので、受験が終わってから工事をされました。合格のご報告と一緒に、塗り終わった家の写真を送ってくださったときは、こちらまで胸が熱くなりました。
ただ、どのお宅でも「待てばいい」というわけではありません。雨水が入り込んでいるようなひび割れや、外壁材が浮いてきているような状態だと、先送りが家にとって負担になることもあります。
だからこそ、時期を決める前に「この傷みはどのくらい待てるのか」を、できれば複数の目で確かめてほしいのです。待てると分かれば、気持ちに余裕を持って受験を応援できますし、待てないと分かれば、工程の工夫で暮らしを守る方向に切り替えられます。
家族の大切な一年と、家の傷み。どちらかを我慢するのではなく、両方を大事にできる段取りを一緒に考えてくれる業者さんと出会ってほしい。弊社がお手伝いをしているのは、そういう出会いのためでもあると思っています。