栃木県のあるお客様から、こんなお電話をいただいたことがあります。「表から見るとまだきれいなので、塗り替えは数年先でいいと思っていたんです。でも業者さんに裏を見せられて、言葉が出ませんでした」。
お宅は南向きの道路に面していて、玄関側の壁は色あせも少なく、ぱっと見では傷んでいるようには見えませんでした。ところが、お隣との間の細い通路、日の当たらない北側の壁は一面うっすら緑色。苔と藻が広がって、目地のコーキングにも細いすき間ができていたそうです。
「毎日見ている壁しか見ていなかった」と、少し悔しそうにおっしゃっていたのを覚えています。こうしたお話は、前職の頃から数えきれないほど聞いてきました。
業界に身を置いて長くなりますが、同じ家でも面によって傷み方がこんなに違うのかと、今でも現場写真を見るたびに思います。
南側や西側は、日差しをまともに受ける面です。色があせたり、壁を触ると手に白い粉がついたり、コーキングが硬くなってひびが入ったり。特に西日の当たる面は、夏の午後に壁がかなり熱くなるので、傷みが早く出る傾向がありました。
北側はその逆で、乾きにくいことが傷みにつながります。雨や朝露のあと湿った状態が長く続くので、苔や藻、カビが出やすい。見た目は色が残っていても、塗膜の下で水を含んでいることもあるんですよね。東側は朝露が残りやすく、北側に近い傷み方をするお宅もありました。
つまり、南側がきれいだから北側も大丈夫、とは言えないのです(逆もそうです)。
難しいことをお願いするつもりはありません。
天気のいい日に、家の周りを一周してみる。それだけで見えてくるものがあります。お隣との細いすき間、物置やエアコン室外機の裏、植木の陰。普段は目に入らない場所ほど、ゆっくり見てほしいと思っています。壁の色がまだらになっていないか、緑や黒っぽい汚れが広がっていないか、目地に切れ目がないか。気になったところはスマートフォンで写真を撮っておくと、翌年見比べられて便利です。
先日も、毎年同じ時期に四方の壁を撮っているというお客様がいらっしゃいました。「去年より北側の緑が濃くなった気がして」とご相談をいただき、早めに点検に入ってもらえたので、大がかりな補修をせずに済んだそうです。こういうお話を聞くと、こちらまで嬉しくなります。
業者さんに現地調査をお願いしたときも、この視点は役に立ちます。
前職で、北側の壁だけ下地の処理を変える提案をした職人さんがいました。「こっちは湿気を吸っているので、洗浄と下塗りを南側と同じにはしないほうがいいです」と、写真を見せながら説明していたんです。お客様はその一言で「この人はちゃんと家を一周見てくれた」と安心されたようでした。
一方で、道路から見える面だけ見て、あとは図面で面積を出して終わり、という調査も残念ながらありました。ですから遠慮せずに「北側や裏の壁も見てもらえましたか」「面によって傷み方は違いましたか」と聞いてみてください。方角ごとの違いをきちんと言葉にできる業者さんは、家全体を見てくれている証拠だと私は思っています。