外壁の点検に来てもらうと、屋根に登ってもらったり、ひび割れを一つひとつ指でなぞって確認してもらったり、思っていた以上に丁寧な仕事をしてもらうことがあります。汗をかきながら屋根裏を覗き込む担当者の姿を見ていると、なんとなく「これだけやってもらったのだから」という気持ちが芽生えてくるんですよね。それ自体は、とても自然な感情だと思います。
点検を無料にするのは、業者にとっても一種の投資のようなものです。だから契約に結びつけたいという思いがあるのは当然のことで、それ自体が悪いわけではありません。ただ、その気持ちの動きを見越して、点検の丁寧さや滞在時間の長さを調整しているように感じる業者に出会うこともあります。悪意があるとは限りませんが、結果としてお客様の判断力を鈍らせてしまうことがあるのです。
以前、長野県にお住まいの60代のご夫婦から相談を受けたことがあります。点検に来てくれた業者さんがとても感じが良く、屋根裏の梁のあたりまで丁寧に見て回ってくれたそうです。奥様は「あんなに親切にしてもらったのに、他の業者にも声をかけるのは失礼な気がして」とおっしゃっていました。ご主人も、隣で頷いていたのを覚えています。
結局そのご夫婦は、その場で契約書にサインをされました。後になって金額を調べてみると、決して法外というわけではなかったのですが、相場より少し高めの水準だったんですよね。ご主人が「もう少し落ち着いて考えればよかった」とぽつりとおっしゃっていて、今でもその声が耳に残っています。悪い業者だったとまでは言い切れません。ただ、比較する機会を自ら手放してしまったことは、少しもったいなかったと感じます。
人に何かをしてもらうと、お返しをしなければという気持ちが自然に湧いてきます。これは外壁塗装に限った話ではなく、誰の中にもある感覚だと思います。丁寧に時間をかけて点検してくれた相手を前にすると、「せっかく来てもらったのだから」という思いが、冷静な判断より先に立ってしまうことがあるのです。
業界に身を置いて20年になりますが、この心の動きを熟知した上で営業のやり方を組み立てている会社があるのも事実です。点検の丁寧さそのものは、お客様にとって決して悪いことではありません。ただ、その丁寧さと、契約するかどうかの判断は、本来は切り離して考えていいことなんですよね。
点検してもらった業者を断ったり、他の業者にも声をかけたりすることは、決して失礼なことではありません。むしろ、複数の業者を比較することは、外壁塗装という大きな買い物において当たり前のことだと私は思っています。家を建てるときに一社だけで決める方は少ないはずです。外壁塗装も、本来はそれと同じくらい慎重に選んでいいものなのです。
弊社にご相談くださる方の中にも、「一社にしか声をかけていなかったので断れなかった」という声を聞くことがあります。そのたびに、比較すること自体への心理的なハードルを下げていくことも、私たちの役目のひとつなのだろうと感じています。
もし今、点検してもらった業者への申し訳なさから契約を急ごうとしているなら、少しだけ立ち止まってみてほしいのです。良い仕事をする業者であれば、他社と比較されることを嫌がったりはしません。むしろ、比較された上で選ばれることに、自信を持っているものだと思います。