外壁塗装というと、多くの方はまず塗料の色や耐久性を気にされます。ですが現場に入ってみると、最初にぶつかる壁は庭木だったりするんです。足場は建物の周囲をぐるりと囲むように組むため、幅にして60センチから90センチほどの作業スペースが必要になります。庭木がその位置に育っていると、枝を大きく落とすか、根元から切るか、という話になってしまうんですね。
厄介なのは、この問題が現地調査の段階で軽く流されてしまうことです。営業担当の方は契約を急ぐあまり「大丈夫ですよ、うまく組みますから」とだけ伝えて、実際に足場屋さんが来てから「この木は動かせません」と発覚するケースを、私は何度も見てきました。
忘れられないお話があるんです。長野県のあるお客様は、お子さんが生まれた年に植えた柿の木を、庭の一番良い場所で育てていらっしゃいました。もう二十年近く経つ木で、毎年ご近所にも実を配るのを楽しみにされていたそうです。ところが外壁塗装の契約が進んでから、足場屋さんに「この位置だと枝を落とさないと組めません」と言われ、当日になって初めて事の重さに気づかれました。
お電話口で、お客様は「切るなら最初に言ってほしかった」と、声を詰まらせながらおっしゃっていました。工事は無事に終わったのですが、柿の木は形が大きく変わってしまい、以前のようには実をつけなくなったと聞いています。業者側に悪気があったわけではないのですが、確認の順番が後回しになっただけで、こういう後悔が生まれてしまうんですよね。
もうひとつ、庭木を巡ってよく相談を受けるのが、隣の敷地から越境してきた枝の扱いです。足場を組む位置に隣家の木の枝がかかっていることは意外と多く、これを勝手に切ってしまうと、たとえ数センチのことでも近隣トラブルに発展することがあります。
民法上は越境した枝についてお隣に切除を求められる、という考え方もあるのですが、実際の現場ではそこまで杓子定規に進めると角が立ちます。業者に任せきりにせず、施主側からひと声かけて事情を説明しておくだけで、後々の空気がまったく違ってくるものです。
私がお客様にお願いしたいのは、現地調査の際に塗料や金額の話だけでなく、庭木についても具体的に聞いてほしいということです。「この木はどうなりますか」「切らずに足場を組む方法はありますか」と一言添えるだけで、業者側の対応は変わります。
足場の組み方には、木を避けて外側に張り出す工法や、枝を紐で一時的にまとめて逃がす方法もあります。費用は多少上がることもありますが、思い出のある木を守れるなら、それも含めて検討する価値はあるはずです。決まったことは、口約束ではなく見積書や図面にひと言でも残しておいてもらう。それだけで、当日の「言った言わない」を防げます。