前職で担当したお客様のことを今でも覚えています。ある地方都市にお住まいの方で、隣の敷地で古い家屋の解体が始まり、しばらくして建て替え工事の基礎工事が続いていた時期のことでした。リビング側の外壁に斜めに走るひびを見つけて、真っ先に「うちも外壁塗装を考える時期なのかもしれない」とご相談をいただいたんです。
お宅にお伺いして詳しくお話を伺うと、そのひびに気づいたのは工事車両の出入りが激しくなってからだったそうです。塗装の劣化によるひび割れは表面が細かく網目状になることが多いのですが、そのお宅のひびは一本、深く一直線に走っていました。振動によるひびの特徴に近いものでした。
厄介なのは、ひびがいつ発生したのかを後から証明するのが難しいという点です。隣家側からすれば「もともとあったひびではないか」と言われてしまえば、こちらとしても強く言い返せる材料がありません。実際、そのお客様も工事前の外壁の状態を写真で残していなかったため、話し合いがなかなか前に進まなかったと聞いています。
これは近隣で解体や建て替えの予定があると分かった時点で、できれば工事が始まる前に外壁全体の写真を撮っておいてほしいということです。外壁塗装のタイミングを検討している方ほど、現状の記録を残しておくことが、後々の思わぬトラブルへの備えになります。
こういう時、多くの方が悩むのは「隣家との関係を壊したくない」という気持ちと、「実際にかかる補修費用をどうするか」という現実の間で板挟みになることだと思います。感情的に隣家へ直接申し入れる前に、まずは建築士や第三者の診断機関に外壁を見てもらい、ひびの原因や発生時期についての専門的な見解をもらっておくと、話し合いが冷静に進みやすくなります。
また、加入している火災保険に「破損・汚損」に関する特約がついている場合、条件によっては補修費用の一部をカバーできることもあります。契約内容を一度確認してみてほしいですね。業界に身を置いて長いですが、こうした近隣起因のひびは、外壁塗装の相談の中でも意外と見落とされがちな分野だと感じています。