埼玉県のお客様から連絡をいただいたのは、工事が終わって三週間ほど経った頃でした。お隣の敷地で古い家屋の解体が始まり、数日のうちに外壁の色がくすんで見えるほど粉じんが積もってしまったというお話でした。窓を開けられない、洗濯物も外に干せない、そんな毎日が続いていたそうです。
電話口の声には疲れがにじんでいました。塗ったばかりの壁がこんな形で汚れるとは考えてもいなかった、と。私も前職で似たようなご相談を何件か受けたことがあり、そのたびに感じていたのは、外壁塗装の保証というものが、意外と狭い範囲しかカバーしていないという事実です。
塗装業者が発行する保証書の多くは、塗膜の剥がれや膨れ、色あせといった、施工そのものに起因する不具合を対象にしています。ところが今回のように、近隣の工事による粉じんの付着は、施工不良ではなく外部からの要因です。ここを混同してしまうと、保証の話し合いが思わぬところでこじれてしまいます。
高圧洗浄で落ちる程度の汚れなのか、それとも塗膜に食い込んでしまっているのか。まずそこを見極める必要があり、状態によっては再洗浄で済むこともあれば、部分的な塗り直しが必要になることもあります。判断を急がず、写真を残しながら業者に相談してほしいと思います。
このお客様が一番困っていたのは、実は汚れそのものより「誰に言えばいいのか分からない」ということでした。塗装業者に言うべきなのか、解体工事の元請けなのか、それとも解体を発注したお隣の方に直接話すべきなのか。窓口が定まらないまま数週間が過ぎ、気持ちだけが焦っていったそうです。
こういう時は、まず塗装業者に状況を伝え、現地を見てもらうところから始めるのが良いと思います。原因が外部にあると分かっても、洗浄方法の判断や補修の見積もりは専門知識が要りますし、解体業者側との話し合いに専門家の言葉があるだけで、進み方がずいぶん変わってきます。
今回、このお客様を救ったのは、工事完了時に撮ってもらっていた外観の記録写真でした。塗り終わった直後の色味や壁面の状態がはっきり残っていたおかげで、粉じんによる変化を客観的に示すことができたのです。工事の品質を確認するための記録が、まさか近隣とのやり取りで役に立つとは、本人も思っていなかったと話していました。
足場を外した日の写真は、施工の出来を確認するためだけのものではありません。数年後、思いがけない出来事が起きたときに、自分の家がどんな状態だったかを示す大切な資料になります。業者から渡された記録写真は、捨てずに手元に残しておいてほしいと思います。