前職で現場の間に入っていた頃、ある業者さんから電話を受けたことがあります。足場を外した直後、お隣の方が家の外壁を指して「ここ、工事で傷つけましたよね」とおっしゃったそうなんです。業者さんは工事前からあったと説明したものの、証拠がない。言い合いにはならなかったものの、お互いにどこか気まずい空気が残ってしまいました。
あの電話口の業者さんの困った声を、今でもよく覚えています。悪いことをしたわけでもないのに、説明のしようがないというのは、思っている以上につらいものなんですよね。
外壁には、工事の前から小さなひびや汚れ、色あせがあることのほうが普通です。足場が組まれて、シートがかかって、作業員の方が出入りするようになると、お隣からすると「何かあったのでは」と気になってしまう。それ自体は、ごく自然な感情だと思います。
問題は、工事が終わってから「前からあったひび」と「工事中についたひび」を見分ける方法が、ほとんど残っていないという点です。業者側に悪意がなくても、お客様側に落ち度がなくても、記録がなければ水掛け論になりやすい。これは誰のせいというより、仕組みの問題だと感じています。
着工前にお隣の外壁まで含めて写真を残しておく業者さんは、実のところ多くありません。手間がかかりますし、お隣に声をかける気まずさもあります。ただ、これをきちんとやってくれる業者は、結果的にお客様自身を守っていることが多いんです。
もし何か指摘を受けたときも、工事前の状態を示せれば「違いますよ」と冷静に説明できます。反対に、本当に工事で何かあった場合も、早めに気づいて対応できる。どちらに転んでも、言い合いにならずに済むというのが一番の効果だと思っています。せっかく塗り終えた外壁が、ご近所とのわだかまりの思い出と一緒に残ってしまうのは、もったいないですから。
もし今から業者を選ぶなら、「着工前にお隣の外壁も記録してもらえますか」と、ひとこと聞いてみてほしいんです。慣れている業者なら「もちろんやっています」とすぐに答えますし、そうでない業者は少し戸惑うかもしれません。その反応の差で、現場への向き合い方が見えてくることもあります。
もちろん、お隣への声かけ自体にも気遣いが要ります。「記録のためなので安心してください」と一言添えるだけで、受け取り方はずいぶん変わるものです。小さな配慮の積み重ねが、工事が終わったあとの近所づきあいを守ってくれるのだと思います。