コロナ禍のあたりから、現地調査をドローンや写真だけで済ませ、打ち合わせもオンライン、契約書もクラウドサインで完結する。そんな外壁塗装業者が増えてきました。仕事で家を空けがちな方や、遠方に住むご家族の実家を手配する方にとっては、本当にありがたい仕組みだと思います。前職でこうした非対面型の見積もり相談を受けることが増えてきた頃、私自身も「これは時代に合っている」と感じていました。
ただ、便利さと引き換えに何かが抜け落ちていないか。そこは業界にいる人間として、ずっと気になっていたところでもあるんですよね。
長野県のあるお客様から伺ったお話です。仕事が忙しく、休みも取りづらい時期だったこともあり、現地調査から契約まで一度も担当者と顔を合わせることなく、すべてオンラインで進めたそうです。写真と画面上の色見本アプリを見比べて色を決め、契約もクラウドで完了。工事も日中は不在のまま進んでいったといいます。
完成後、久しぶりに休みを取って自宅の外壁を眺めたとき、思っていた色と少し違う、と感じたそうなんです。画面越しに見ていた色よりも、実際の陽の光の下ではずいぶん明るく、艶も強く見える。担当者に相談すると「モニターの発色の違いだと思います」という返事で、それ以上は話が進まなかったとお電話をいただきました。誰かが手を抜いたわけでは決してないのですが、対面で一度でも試し塗りの板を屋外の光の下で見ていれば、防げた行き違いだったのではないかと、今でも思っています。
色の見え方だけの話ではありません。外壁の劣化状況は、写真だと影の付き方ひとつで印象がまったく変わりますし、コーキングの弾力や下地の傷み具合は、実際に指で触れてみないと分からないことがほとんどです。職人が現場で感じる「この面はもう少し下地処理に手間がかかりそうだ」という肌感覚も、画面越しには伝わりにくいものなんですよね。
業界に身を置いて20年になりますが、優良な業者ほど、オンラインでの利便性は活かしつつも、契約前には必ず一度は現地で人と顔を合わせる機会を残しているように感じます。効率と丁寧さは、本来どちらかを選ぶものではないはずなんです。
私は非対面での見積もりや相談そのものを否定したいわけではありません。忙しい方にとって、まず概算を知る、業者の対応を見比べる、という入り口としてはとても有効な手段だと思います。ただ、色を最終決定する場面や、契約書にサインする直前だけは、一度でいいので担当者と顔を合わせる、あるいはビデオ通話でもいいので試し塗りの板を一緒に確認する。そのひと手間があるかどうかで、完成後の満足度は大きく変わってくると感じています。
便利な仕組みが増えるほど、最後の確認だけは人の目と人の言葉で、というのが結局は一番の近道なのかもしれません。