前職で、ある地方のお客様からお電話をいただいたことがあります。塗り替えから半年ほどたったころでした。
「南側の壁に、虫に刺されたみたいなぷくっとした跡がいくつもあって。指で押したらペコッとへこんだんです」。お声は落ち着いていましたが、受話器の向こうでかなり心配されているのが伝わってきました。高いお金をかけて塗ったばかりの家ですから、当然ですよね。
写真を送っていただくと、塗膜の下に空気や水分がたまって、表面が浮き上がっている状態でした。業界では「膨れ」や「ブリスター」と呼ばれるものです。このとき私がまず思ったのは、ああ、潰さずに連絡してくださって良かった、ということでした。
膨れが起きる理由はいくつかあります。よく見てきたのは、下地が湿ったまま塗ってしまったケースです。高圧洗浄や雨のあと、壁の中の水分が抜けきらないうちに塗料で蓋をしてしまうと、日差しで温められた水分が外に出ようとして、塗膜を内側から押し上げるんです。
もう一つは、塗料と外壁の相性です。伸びのある弾性塗料を、熱をため込みやすいサイディングの壁に使うと、夏場に膨れが出やすい傾向がありました。濃い色を選んだお宅で、日当たりの強い面に集中して出ることも多かったですね。
それから、古い塗膜の上に密着しない塗料を重ねていた、というお宅もありました。いずれにしても、膨れは「たまたま」ではなく、何かしらの原因があって出てくるもの。そう考えていただくのが良いと思います。
膨れを見つけると、つい針で突いたり、剥がしてしまいたくなるものです。気持ちは分かります。
ただ、潰してしまうと、そこから雨水が入り込みやすくなりますし、後で業者さんが原因を調べる手がかりも失われてしまいます。保証の相談をするときにも、「元の状態」が残っているかどうかで話の進み方が変わることがあるんですよね。
おすすめしているのは、日付が分かる形で写真を撮っておくこと。壁全体が分かる引きの写真と、膨れのアップを両方です。できれば、晴れた日の午後と曇りの朝のように、時間帯を変えて撮っておくと、大きさの変化が分かって役に立ちます。そのうえで、保証書を手元に用意して施工した業者さんに連絡してください。
冒頭のお客様の話には続きがあります。業者さんはすぐに来てくれたのですが、最初の提案は「膨れた部分を削って、上から塗り直しておきます」というものでした。
お客様は一度それで納得しかけたそうです。でも、私が「なぜ膨れたのか、原因は聞かれましたか」とお尋ねすると、しばらく黙ってから「……聞いていません」と。原因がそのままなら、補修した場所の隣にまた膨れが出てもおかしくないんです。結局、改めて業者さんに説明を求めたところ、洗浄後の乾燥が足りなかった可能性が高いという話になり、南面をきちんと下地からやり直すことになりました。
補修してもらうときは、原因の説明と、同じことが起きないための対策をセットで聞いてみてください。誠実な業者さんほど、ここを丁寧に話してくれます。逆に、原因の話になると言葉を濁す場合は、少し立ち止まって考えてもいいのかなと思います。
膨れの多くは、工事が終わってから最初の夏を越すあたりで表に出てきます。足場が外れて「終わった」とほっとした後の時期ですね。
だからこそ、塗り替えのあとしばらくは、洗濯物を干すついでや庭の水やりのときに、日当たりの強い面を少し気にかけて見てあげてほしいんです。早く気づけば、それだけ相談もしやすくなりますから。
弊社としても、工事が終わった後のお客様が一人で悩まずに済むように、何かあればいつでもご相談いただける窓口でありたいと思っています。