外壁塗装の工事が始まると、業者は塗料や資材をまとめて現場に運び込みます。一戸建てであれば数缶から十数缶程度で済むことが多いのですが、面積の大きな建物や、複数の色を使い分ける工事になると、その数はぐっと増えます。見積書には「塗料代」という一行しか出てきませんが、その裏側でどれだけの量が、どのタイミングで、どこに運ばれてくるのかまでは、なかなか想像がつかないものだと思います。
塗料の多くは消防法上「危険物第4類」に分類される引火性の液体です。普段は業者の倉庫でまとめて保管されていて、施主の目に触れることはほとんどありません。ところが工事期間中だけは、自宅の敷地内や駐車スペースに一時的に置かれることになります。ここに、意外な落とし穴があるんですよね。
前職の窓口業務をしていたころ、長野県のあるお客様から電話をいただいたことを今でも覚えています。「工事中の家の前に、缶がたくさん積まれたままになっている。夏場だし、子どもが近くで遊ぶので心配だ」というご相談でした。声のトーンからも、かなり不安な気持ちが伝わってきたのを覚えています。
実際に現場を確認してもらうと、業者は当日使う分だけをきちんと運んでいたのですが、台風接近の予報を受けて予定より多めに前日搬入していたことが分かりました。作業の段取りとしては決して間違ったことをしていたわけではありません。ただ、その理由をお客様に一言伝えていなかったばかりに、余計な心配をかけてしまったんですよね。
幸い大きな事故にはつながらなかったのですが、お客様の不安なお気持ちはよく分かりましたし、業者側の説明が足りなかったことも事実です。こうした「なぜ今日はこんなに置いてあるのか」を一言伝えるだけで防げた不安だったのではないかと、今でも思い返します。
塗料に含まれる有機溶剤などの危険物には、消防法で「指定数量」という基準が定められています。この量を超えて保管する場合には、消防署への届出や、決められた方法での保管が必要になります。一般的な戸建ての外壁塗装であれば指定数量を超えることはあまり多くありませんが、大規模な物件や、複数棟をまとめて請け負っている業者が資材をまとめ置きするようなケースでは、注意が必要な場面も出てきます。
実際、契約後に「あれ、思ったより量が多いですね」と驚かれる方は少なくありません。工事の規模や塗り回数によって必要な缶数は変わってきますし、色を途中で変更すれば当然その分も増えます。事前におおよその数量と保管場所を聞いておくことは、決して難しいお願いではないと思うんです。
こうしたルールは、施主の側から見ると縁遠い専門知識に思えるかもしれません。ですが、火気の近くに置かない、直射日光を避ける、といった基本的な保管の配慮は、近隣の安全にも関わってくることなんですよね。夏場の炎天下に長時間置かれた缶が、変形してしまっているのを見かけたこともあります。
契約前に「塗料はどのくらいの量を、どこに保管する予定ですか」と一言聞いてみるだけでも、業者の姿勢が見えてくることがあります。きちんとした業者であれば、当日使う分だけを運び込む、残りは倉庫で管理する、といった具体的な答えが返ってきます。反対に、質問自体を面倒がられたり、はぐらかされたりするようであれば、少し立ち止まって考えてほしいと思います。
弊社に相談をくださる施主の方の中にも、こうした細かな部分にまで気を配る方は多くありません。無理もないと思います。ですが、13,000件を超えるマッチングを見てきた中で、小さな配慮の積み重ねが、工事全体への信頼につながっていくのを何度も感じてきました。塗料の量や置き場所は、工事全体からすればほんの小さな一部分です。それでも、そこに気を配れる業者かどうかは、案外いろいろなことを教えてくれる気がしています。