前職で施主様のご相談を受けていた頃、一番多かったのは工事を考えているご本人からのお電話でした。それとは別に、ご本人のお子さんからのお電話も、ずっと一定数あったんです。
内容はだいたい似ていました。「母が一人で業者さんと話を進めていて、気づいたら契約していた」「金額が妥当なのか分からない」「今からでも何かできることはありますか」。電話口の声には、親御さんを責めたいわけではないけれど、もっと早く知っていれば……という悔しさがにじんでいました。
こういうお電話をいただくたびに、胸が苦しくなりました。
ご高齢の親御さんが一人で決めてしまうのは、判断力がないからではないんですよね。私が見てきた限りでは、むしろ「子どもに迷惑をかけたくない」「忙しいのに手間を取らせたくない」という思いやりから、黙って進めてしまうケースが多いように感じます。
家を守ってきたのは自分たちだ、という誇りもあると思います(これは本当に大切な気持ちです)。だからこそ、子どもの側から「なんで相談してくれなかったの」と言ってしまうと、親御さんは次から余計に話してくれなくなる。そこが難しいところなんです。
北関東にお住まいのあるお母様と、東京で働く娘さんのお話は、今でもよく思い出します。
最初にお電話をくださったのは娘さんでした。「実家の壁にひびがあると母から聞いたけど、私は月に一度しか帰れない。母一人で業者さんと会わせるのが心配で」とのこと。その時点では、まだどこにも見積もりを頼んでいない段階でした。
私がお伝えしたのは、お母様の代わりに全部決めようとしなくていい、ということです。業者さんとの立ち会いはお母様にお任せして、見積書が出たら写真で送ってもらう。分からないところは娘さんがまとめて質問する。決めるのは、あくまでお母様。役割を分けただけなんです。
工事が終わってしばらくして、お母様から「娘が一緒に見てくれたから、安心して頼めました」というお言葉をいただきました。娘さんからは「口を出しすぎず、でも一人にしない、その間がちょうどよかった」と。この言葉は、今でも私の支えになっています。
離れて暮らしていると、毎回立ち会うのは難しいですよね。それでもできることはあると思っています。
たとえば、帰省のついでに家の外を一周してみる。壁を手で触って白い粉がつかないか、ひびや汚れが増えていないかを、親御さんと一緒に眺めるだけでもいいんです。「そろそろ考えてもいい時期かもね」と、決める前の段階で話題にしておくと、いざという時に親御さんも相談しやすくなります。
見積もりが届いたら、書類をスマートフォンで撮って送ってもらう。電話で業者さんの印象を聞いてみる。それくらいの関わり方で十分なことが多いです。
大事なのは、親御さんの「決める役」を取り上げないこと。子どもは隣で一緒に考える役、くらいがうまくいくように思います。
弊社にも、ご本人ではなくお子さんからご相談をいただくことがあります。そういう時は、ご家族の皆さんが納得して進められるよう、ご説明の仕方やタイミングをできるだけ合わせるようにしています。
家は、親御さんにとっても、そこで育ったお子さんにとっても特別な場所なんですよね。その家の塗り替えを、誰か一人が不安を抱えたまま決めることがないように。そんな思いで、日々のご相談をお受けしています。