前職にいた頃、静岡県のあるお客様からお電話をいただきました。塗り替えから半年ほどの時期です。
「二階の窓の下に、黒い線が何本も出てきたんです。手抜きだったんでしょうか」。声が沈んでいました。真っ白に近いクリーム色を選ばれていたこともあって、その筋はかなり目立っていたそうです。ご近所の方から「あれ、もう汚れてるね」と言われたのが、一番こたえたとおっしゃっていました。
施工した業者さんと一緒に現地を見に行くと、塗膜自体は剥がれも膨れもなく、きちんと塗られていました。原因は塗装の不良ではありませんでした。窓のサッシの上にたまった砂ぼこりや排気ガスの汚れが、雨のたびに少しずつ壁を伝って流れ落ちていた。いわゆる「雨だれ」、雨筋汚れと呼ばれるものです。
雨だれが出やすいかどうかは、塗装の腕よりも、家のつくりに左右されることが多いんですよね。
窓の上や下に出っ張り(庇や水切り)がないお宅、軒の出が浅いお宅、ベランダの手すりの上端から水が壁に落ちるお宅。こういう場所は、雨水が汚れを連れて壁の上を流れやすいのです。最近の住宅は軒がほとんどないデザインも多く、私が業界に入った頃と比べると、相談の件数も増えてきたように感じています。
色の影響も小さくありません。白や淡いクリーム色は、黒っぽい筋がくっきり見えます。濃い色だと今度は白っぽい汚れが目立つこともあるので、どの色なら安心とは言い切れないのが難しいところです。
静岡のお客様の家は、軒がほとんどなく、窓まわりに水切りもない、すっきりした外観でした。そこに淡い色。条件が揃ってしまっていたんです。
このご相談のあと、私は業者さんとの打ち合わせでよく「この家は雨だれの心配はありますか」と聞くようにしました。
しっかりした業者さんは、この質問で表情が変わります。家をぐるっと見て、「この窓の下は筋が出やすいですね」「ここは汚れが付きにくい種類の塗料を選ぶ手もあります」と、具体的に話してくれる。反対に「大丈夫ですよ、うちの塗料は良いので」としか返ってこない場合は、少し立ち止まって考えてもいいのかなと思います。
汚れが付きにくい性質を持たせた塗料(低汚染タイプと呼ばれるもの)もありますし、サッシまわりに後付けの水切り部材を付ける方法もあります。どれが合うかは家によって違うので、ここは現地を見た業者さんの意見を聞いてみてください。費用が上がることもありますから、見積もりに入っているかどうか、比べるときの一つの目印にもなります。
静岡のお客様には、業者さんがやわらかいスポンジと水で落とせる範囲を実際にやって見せてくれました。全部ではありませんが、かなり薄くなって、お客様もほっとした顔をされていたのを覚えています。
ただ、高圧洗浄機を強く当てたり、硬いブラシでこすったりすると、塗膜を傷めてしまうこともあります。気になったら、まずは施工した業者さんに相談するのが安心です(定期点検のときに見てもらうのも良いと思います)。
あのとき「手抜きだったんでしょうか」と聞かれて、すぐに答えられなかった自分の未熟さを、今でもときどき思い出します。仕上がりの良し悪しと、汚れやすさは別の話。それを工事の前にお伝えできていれば、お客様はあんなに落ち込まずに済んだはずなんです。