前職にいた頃、静岡県のあるお客様からいただいたお電話を今でも覚えています。「塗り替えてまだ一年ちょっとなのに、壁の板の継ぎ目がまた目立ってきたんです」と。
お話を伺うと、工事の前から南側の板が何枚か、端のほうで少し反っていたそうです。営業の方に聞いたら「塗れば分からなくなりますよ」と言われ、それで安心してしまった。たしかに塗った直後は色がそろって、きれいに見えたんですよね。でも反りそのものは残っていたので、季節がひと回りするうちに、また影ができて浮き上がって見えるようになった。
お客様は「最初に聞いておけばよかった」とおっしゃいましたが、そもそも何を聞けばいいのか分からないのが普通だと思います。だからこそ、知っている側が先にお伝えしないといけない、と強く感じた出来事でした。
窯業系のサイディングは、雨を吸っては乾くことを長い年月くり返すうちに、少しずつ形が変わっていきます。板を留めている釘がゆるんだり、日当たりの強い面だけ早く傷んだり。原因はお宅ごとにまちまちです。
塗料は表面を膜で守るものなので、曲がった板を元に戻す力はありません。
見た目だけの問題でもないんです。浮いたところには小さな隙間ができていて、そこから雨水が板の裏へ回り込むことがあります。表面をきれいに塗っても、裏から湿気を吸えば反りはまた進んでしまう。塗装で「ふた」をしたつもりが、かえって傷みに気づきにくくしていた、という例も私は何度か見てきました。
これはあまり知られていない話なのですが、色の濃さも反りに関わることがあります。黒や濃紺のような濃い色は日差しの熱をため込みやすく、夏場は壁の表面がかなり熱くなります。その熱で板が伸び縮みして、反りを助長してしまう場合があるんですね。
サイディングのメーカーによっては、塗り替えに使う色の明るさに目安を設けているところもあります。濃い色がいけないという意味ではありません。好きな色で暮らしたいお気持ちは大切ですし、私もそう思います。ただ「うちの壁材でこの色を使っても大丈夫ですか」と業者さんに一度聞いてみてほしいのです。きちんとした業者さんなら、壁材を確かめたうえで答えてくれるはずです。
反りや浮きがあるお宅では、塗装の前に釘やビスで留め直したり、傷みの強い板だけを張り替えたりする方法があります。どれが合うかは現地を見ないと分かりませんが、こうした手当てが見積書に一行も入っていない場合は、少し立ち止まってほしいと思っています。
おすすめしたいのは、晴れた日の午後に壁を斜め横から眺めてみることです。光が横から当たると、板の反りや継ぎ目の段差が影になって浮かび上がります(高い場所に上るのは危ないので、地面から見える範囲で十分です)。気になったところをスマホで撮っておいて、現地調査のときに「ここはどう扱う予定ですか」と見せてみてください。
その質問に、実物を見ながら丁寧に答えてくれるかどうか。私はそこに、業者さんの誠実さがよく表れると感じています。