外壁塗装の業者さんの看板やチラシに、「創業45年」「創業60年」といった文字を見かけることがあると思います。長く続いている会社は、それだけお客様から選ばれ続けてきた証だと考えるのは、決して不思議なことではありません。私も前職で窓口の仕事をしていた頃、お客様から「長くやってる会社の方が安心よね」という声を数えきれないほど聞いてきました。
ただ、この「創業年数」という言葉には、実はいくつかの数え方があるのです。法人として登記された年を指す場合もあれば、代表者が個人で塗装の仕事を始めた年を指すこともありますし、なかには先代が営んでいた全く別の業種(たとえば工務店や建材店)を起点にしている会社もあります。看板に書かれた数字だけでは、その中身までは分からないんですよね。
忘れられないお話があるんです。前職で窓口をしていた頃、長野県にお住まいの60代のお客様からお電話をいただきました。「創業50年って書いてあったから安心して契約したのに、担当してくれた営業さんは入社2年目だと言っていたし、実際に塗ってくれた職人さんも今年から出入りするようになった人だったみたい。なんだか話が違う気がして」というご相談でした。
調べてみると、その業者さんは数年前に事業を承継していて、社名と「創業年数」の表記だけがそのまま引き継がれていました。悪いことをしているわけではないのですが、お客様が思い描いていた「50年続く安心の体制」とは、少し違う実態だったのです。工事の質そのものに問題があったわけではないのですが、お客様の中に残ったのは、なんとなく騙されたような気持ちでした。この感覚は、後から取り返しがつきにくいものだと感じています。
創業年数そのものを鵜呑みにするのではなく、確認できる客観的な情報を見てほしいと思います。たとえば法人番号は国税庁のサイトで検索でき、法人の設立年月日が分かります。建設業許可を持っている業者であれば、許可の取得年や更新履歴も都道府県のサイトで公開されています。こうした情報と、看板に書かれた「創業○年」を照らし合わせてみると、実態が見えてくることがあるのです。
もちろん、事業承継やのれん分けそのものが悪いわけではありません。技術や信頼を受け継ぎながら世代交代していく会社も、業界にはたくさんあります。大切なのは、数字の印象だけで判断せず、今、実際に工事を担当する体制はどうなっているのかを確認する一手間だと思っています。
こんなことを書きながら、私自身のことも思い浮かべています。弊社は2025年に立ち上げたばかりの、いわば若い会社です。看板だけを見れば、長く続く老舗の業者さんと並んだときに、見劣りしてしまうかもしれません。それでも私は、前職で10年以上、外壁塗装の窓口として1万件を超えるお客様と業者さんのマッチングに関わってきました。トラブルの現場にも、うまくいった現場にも、数えきれないほど立ち会ってきたのです。
会社の設立年と、そこで働く人たちの経験は、必ずしもイコールではありません。逆に言えば、創業年数が長くても、担当者が入れ替わっていれば経験は引き継がれていないこともありますし、若い会社でも、そこにいる人間が積み重ねてきたものは消えないのです。業者選びをするときは、看板の数字だけでなく、実際に対応してくれる人がどれだけの経験を持っているか、というところまで、ぜひ聞いてみてほしいなと思います。