前職で、千葉県のあるお客様からお電話をいただいたことがあります。「外壁塗装をしてまだ一年なのに、外階段の手すりにもう赤い点が出てきたんです」。少し声が震えていました。
アパートを一棟お持ちの方で、二階へ上がる鉄骨の外階段と手すりも、外壁と一緒に塗り替えてもらったそうです。完成した日はつやつやで、入居者さんからも「きれいになりましたね」と声をかけられて、とてもうれしかったとおっしゃっていました。
それが一年後には、踏み板の角や手すりの継ぎ目から、赤茶色のサビがぽつぽつと浮いてきた。お話を伺いながら、胸のあたりが重くなったのを覚えています。こうしたご相談は、一度や二度ではなかったからです。
鉄の部分を塗る前には、「ケレン」と呼ばれる下準備があります。ワイヤーブラシやサンドペーパー、ときには電動の工具を使って、浮いたサビや古い塗膜を削り落とします。表面に細かい傷をつけて、塗料が食いつくようにする作業でもあります。
地味で、時間がかかって、粉も出ます。職人さんにとっても、楽な工程ではありません。
それでも、鉄部の持ちはこのケレンで大きく変わると私は思っています。サビが残ったまま上から塗ると、塗膜の下でサビがじわじわ広がり、やがて塗膜ごと押し上げてしまうんですよね。塗った直後はきれいに見えるので、完成の日には誰も気づけません。そこが厄介なところなんです。
千葉のお客様も、後から別の業者さんに見てもらったところ、古いサビの跡がそのまま塗り込められていたと分かったそうです。見積書を見せていただくと、鉄の部分については「鉄部塗装」の一行しかありませんでした。
では、お客様の側で何ができるのか。私がいつもお伝えしているのは、見積書に「ケレン」という言葉が入っているか、まず探してみてくださいということです。
丁寧な業者さんほど、鉄の部分を「ケレン」「サビ止め」「仕上げ塗り」と分けて書いてくれる傾向がありました。ケレンにも段階があって(表面を軽く整える程度から、サビをしっかり落とすところまで)、お宅の状態ならどこまでやるのかを説明してくれる業者さんもいます。
書かれていなければ、遠慮なく聞いて大丈夫です。「階段のサビはどうやって落としますか」「サビ止めは塗りますか」。この二つを聞くだけで、返ってくる答えにずいぶん差が出ます。道具や手順の話がすぐに出てくる方もいれば、「大丈夫ですよ、きれいになりますから」で終わってしまう方もいる。どちらに任せたいかは、お客様ご自身が一番よく分かると思います。
工事中、ケレンが終わった段階で一度写真を撮っておいてもらうのも、ひとつの方法です。
業界に身を置いて長くなりますが、外壁は多少手を抜かれても、すぐには分からないことがあります。でも鉄の部分は違います。一年、早ければ半年ほどで、サビという形で答えが出てしまうんです。
外階段、手すり、ベランダの柵、門扉、窓の上の小さな庇。見回してみると、お宅にも鉄の部分は意外と多いものです。
千葉のお客様は、その後やり直しの工事をされました。今度は工事中に何度も現場をのぞきに行ったそうで、「削る音が一日中していて、ああ、これが本当の下準備なんだと思いました」とおっしゃっていたのが、今でも忘れられません。
私がくらべるを始めた理由のひとつも、こうした目立たない工程を大事にする業者さんと、お客様をつなぎたかったからなんです。