前職で窓口を担当していた頃、ある年の5月に、東北のお客様からお電話をいただきました。来月から外壁塗装の工事が始まる予定なのに、玄関の上にツバメが巣を作ってしまった、と。卵がもう入っているようで、業者さんからは「足場を組むので巣は取りますね」と言われたそうです。
電話口のお声が、ずいぶん沈んでいたのを覚えています。
「毎年来てくれるのが楽しみだったんです。でも工事も延ばせないし、どうしたらいいか分からなくて」。その方は、ツバメを追い払うことにも、工事を遅らせることにも、どちらにも罪悪感を感じていらっしゃいました。家を大事にしたい気持ちと、生き物を大事にしたい気持ち。どちらも、その方の暮らしそのものなんですよね。
意外と知られていないのですが、ツバメは鳥獣保護管理法で守られている野鳥です。卵やヒナがいる巣を許可なく取り除くことは、法律で認められていません。
空になった巣を片付けるのは問題ないとされています。ただ、使われている最中の巣を「工事の邪魔だから」と落としてしまうのは、お客様にとっても業者にとっても、あとで大きな後悔やトラブルにつながりかねないんです。
そのお客様の件では、私から業者さんに事情をお伝えして、巣のある面だけ工程を後ろに回してもらいました。ヒナが巣立つまで、玄関まわりの足場は少し離して組み、養生も巣にかからないように工夫してもらったんです。巣立ちを見届けてから、最後にその一角を仕上げる。工期は少し延びましたが、お客様からは「来年もきっと帰ってきてくれます」と、明るいお声でお礼のお電話をいただきました。
ツバメの子育ては、地域にもよりますが、だいたい春先から夏にかけてです。この時期に外壁塗装を考えている方は、見積もりの段階で「軒下にツバメの巣があります」とひと言伝えておいていただきたいと思います。
着工の直前に分かると、選べることがどうしても少なくなります。けれど早めに分かっていれば、工事を巣立ち後の秋にずらす、巣のない面から先に進める、といった段取りを業者と一緒に考えられるんです。
巣の下にフンよけの板をつけていたお宅で、その板の跡や汚れが外壁に残っていた、というケースもありました。塗る前にどう下地を整えるか、そこまで見てくれる業者かどうか。小さなことですが、現地調査の丁寧さが表れるところだと私は思っています。
業界に身を置いて長くなりますが、こうした場面での業者さんの反応は本当にさまざまです。
「巣ですか、取っておきますよ」と軽く流してしまうところもあれば、「卵の有無を一緒に確認しましょう、工程を組み直します」と、お客様の気持ちごと受け止めてくれるところもあります。どちらが良い悪いと一概には言えませんが、お客様の暮らしの中にあるものを大切にしてくれる業者は、ほかの細かいところにも目が届いていることが多い。そういう傾向は、たくさんの現場を見てきて感じていることなんです。
もし相談したときに面倒そうな顔をされたら(言葉にしなくても、伝わるものですよね)、その感覚は大事にしていただきたいと思います。