埼玉県のあるお客様から、工事が終わって数日後にお電話をいただいたことがあります。声が沈んでいて、最初は何があったのか分かりませんでした。
お話を聞いてみると、2階建てのお宅を上をベージュ、下をこげ茶のツートンに塗り替えたそうなんです。色そのものは、何度も色見本を見比べて、ご夫婦で納得して決めたものでした。ところが、塗り分けの線が1階の窓の上あたり、壁の途中に引かれていたんですよね。お客様が思い描いていたのは、2階の床の高さあたりで、すっと切り替わる姿でした。「家が少し縮んで見えるんです」とおっしゃっていたのを、今でも覚えています。
業者が手を抜いたわけではありません。打ち合わせで「上下で2色」とは伝わっていても、境目の位置を誰も口にしていなかった。それだけのことで、こうなってしまうんです。
外壁をよく見ると、2階の床の高さに横長の板が回っているお宅があります。帯板や幕板と呼ばれる部材で、ここを境目にすると線がまっすぐに通りやすく、見た目もすっきりまとまる傾向があります。サイディングの継ぎ目(目地)や、窓の上下のラインで切り替えるのも、よく使われる考え方です。
反対に、何もない壁の途中で色を切り替える場合は、養生テープで線を作ることになります。平らな壁ならまだいいのですが、凹凸の柄があるサイディングだと、塗料がテープの下に入りこんで線が少し波打つことがあるんですよね。腕のいい職人さんでも気を遣うところなので、どこで切るかによって仕上がりの難しさも変わってきます。
濃い色を下、明るい色を上にすると、家がどっしり落ち着いて見えやすいと言われています。足元は雨の日の泥はねで汚れやすいので、下を濃い色にしておくと汚れが目立ちにくい、という実用面の良さもあります。
もちろん、逆の配色がおしゃれに決まるお宅もありますし、縦に塗り分けて玄関まわりだけ色を変える方法もあります。どれが正解ということはありません。ただ、色見本の小さな四角を2枚並べただけでは、こうした「面積」と「位置」の感覚までは分からないんです。前職で多くのご相談を受けてきましたが、ツートンの後悔はほとんどが色そのものではなく、配置の話でした。
契約の前に、ご自宅の正面の写真や図面に、塗り分けの線を実際に引いてもらってください。手書きで構いません。カラーシミュレーションを使える業者であれば、境目の位置を変えた案を2〜3パターン見せてもらうのもいい方法です。
決まった位置は、見積書や仕様書に「帯板上で塗り分け」のように一言書いてもらうと安心です(口頭だけだと、現場の職人さんまで伝わらないことがあります)。工事が始まったら、最初の一面が塗り上がった段階で一度見に行ってみてください。そこで違和感があれば、まだ直せます。
「線の位置なんて細かいことを聞いていいのかな」と遠慮される方もいます。でも、毎日帰ってきて目にするのは、まさにその線なんですよね。聞いていいことですし、聞いてくださるお客様のほうが、業者としても仕事がしやすいものだと思っています。